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福岡地方裁判所小倉支部 平成2年(ワ)987号 判決 1994年2月01日

②事件

原告

シャルム田町管理組合理事長

福本喜之

有馬貴晴

伊藤トミ子

山本敏幸

山本孝

竹内ヒロ子

山田泰三

中村龍雄

江口武司

古殿憲一

古殿フサ江

多田隈優

永江賢二

末吉富美子

堀江信子

西本文子

江口康弘

福本喜之

小山アサ子

安藤昌

安藤黎子

岡崎厚

岡崎晴美

寒野つゆ子

浦田泉

山縣光幸

城戸洋二

日本橋建物株式会社

右代表者代表取締役

東俊彦

原告

小野則夫

大場景美

後藤象次郎

藤原千代子

田中政文

板東光康

上畠政男

堤久也

杉本光枝

國廣靖子

西里勇作

髙本英治

髙本秀美

伊藤信行

伊藤直子

中原義憲

形井洋

形井清子

右原告ら訴訟代理人弁護士

三津橋彬

笹森学

田中峯子

吉田康

鈴木高志

石川善一

花井増實

折田泰宏

中村広明

河村利行

石口俊一

吉野正

中島繁樹

村井正昭

矢野正剛

梅野茂夫

三浦邦俊

椛島修

金弘正則

中村仁

山上知裕

佐藤進

服部弘昭

荒牧啓一

山喜多浩朗

被告

山内興産株式会社

右代表者代表取締役

末吉トヨ

被告

株式会社山内開発

右代表者代表取締役

末吉和喜

右被告ら訴訟代理人弁護士

吉田雄策

主文

一  原告シャルム田町管理組合理事長福本喜之の主位的請求を棄却する。

二  被告山内興産株式会社は、原告シャルム田町管理組合理事長福本喜之に対し、金一四一〇万円及びこれに対する平成二年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三1  被告株式会社山内開発は、被告山内興産株式会社に対し、別紙物件目録1の土地について、持分(二四九〇分の一二)全部移転登記手続をせよ。

2  被告山内興産株式会社は、原告ら(但し、シャルム田町管理組合理事長福本喜之、日本橋建物株式会社、山縣光幸を除く。)に対し、別紙物件目録1の土地について、それぞれ別表③記載の割合ずつの持分移転登記手続をせよ。

3  被告山内興産株式会社は、別紙物件目録1の土地について、(一)原告山縣光幸に対し、訴外千葉県市川市川南一丁目一番八号豊村征晴に対する、(二)原告日本橋建物株式会社に対し、訴外北九州市小倉北区大手町一〇番五〇―一一二号西村惠美子に対する、それぞれ一一三七九三〇分の一八八〇の割合ずつの持分移転登記手続をせよ。

四  原告シャルム田町管理組合理事長福本喜之のその余の予備的請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  この判決は第二項、第五項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(主位的・予備的請求)

被告山内興産株式会社は、原告シャルム田町管理組合理事長福本喜之に対し、金一四四〇万円及びこれに対する平成二年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 主文第三項同旨

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

4 1、3について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  請求の趣旨第1項について

(一) 受継前原告形井洋は、別紙物件目録2の建物(シャルム田町。以下「本件マンション」という。)の各専有部分の建物を所有し、その敷地である別紙物件目録1の土地(以下「本件敷地」という。)の共有持分を有する区分所有者全員(以下「区分所有者全員」という。)により構成される団体である本件マンション管理組合(以下「管理組合」という。)の管理者たる理事長であり、平成二年九月一五日、管理組合の臨時総会において、本件訴訟の追行権を授権され、本訴を提起したが、原告福本喜之は、平成五年四月一八日開催の管理組合総会において、理事長に選任され、管理者として本訴を受継したものである(以下管理組合理事長としての原告福本を「原告福本(管理組合理事長)」という。)。

(二) 本件マンションの各区分所有者は、別表記載のとおり、被告山内興産株式会社(以下「被告山内興産」という。)が、もと被告株式会社山内開発(以下「被告山内開発」という。)が所有していた本件敷地上に建築し、昭和六〇年六月二四日保存登記手続をした本件マンションの専有部分の建物及び本件敷地の共有持分を、同日から昭和六二年六月ころにかけて、それぞれ買い受けた(以下「本件各売買契約」という。)。

被告山内興産は、本件敷地の一部に一四区画の駐車場を設け、これに対する専用使用権を、本件各売買契約締結の際、別表記載のとおり、全区分所有者中一二名(以下「駐車場専用使用権者」という。)に対し、一人一区画ずつ分譲し、その対価として各一二〇万円、合計金一四四〇万円を受領し、各購入者に対し、本件敷地の二四九〇分の一二ずつの共有持分移転登記手続をした。

(三) (不当利得 主位的請求の請求原因)

しかし、本件敷地は区分所有者全員の共有に属しているから、駐車場専用使用権者に対して駐車場の引渡しをしたのは、区分所有者全員であって、被告山内興産ではない。つまり、被告山内興産は、本件敷地が区分所有者全員の共有になった後、本件敷地の一部を駐車場として、一部の区分所有者に対して分譲し、その代金の名目で合計一四四〇万円を取得し、区分所有者全員は、共有である本件敷地の一部を駐車場専用使用権者に使用させるという義務を負ったのである。また、駐車場専用使用権は、私的な契約によって法定外の物権を設定しえないこと、平等使用を原則とする共有敷地の性質を害してはならないこと等からすれば、賃借権類似の使用権にすぎないものであり、右代金は使用利益の対価というべきである。そして、右専用使用権が設定された結果、区分所有者全員は、本件敷地の利用を一部制限されるという損失を不可分的あるいは総有的に被っており、他方、被告山内興産は何らの根拠もなく右一四四〇万円を利得している。したがって、区分所有者全員は、被告山内興産に対し、右一四四〇万円の返還を求めることができるところ、管理組合は、本件マンション及び本件敷地の管理権を有し、管理に関する事項として、右返還請求権を行使することができる。

よって、原告福本(管理組合理事長)は、被告山内興産に対し、民法七〇三条に基づき、駐車場分譲代金相当額一四四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年一二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(四) (委任 予備的請求の請求原因)

前記のとおり、駐車場専用使用権者の有する専用使用権が、賃借権類似の債権であり、その設定契約が、管理組合(または区分所有者全員)と駐車場専用使用権者との間で締結された契約関係であること、その設定が、本件敷地の管理または変更に該当し、管理組合の権限に属するかまたは区分所有者全員の集会決議によらなければならないことからすれば、区分所有者全員が、駐車場専用使用権認諾特約付きの売買契約書にそれぞれ署名したことによって、駐車場専用使用権者に対し、各駐車場の専用使用権を設定することを認め、その設定契約を被告山内興産に委任する旨の書面決議をなし、この決議に基づいて、被告山内興産が、管理組合(設立過程にある管理組合ということもできる。)を代理して、駐車場専用使用権者に対して駐車場専用使用権を設定し、その対価として合計一四四〇万円を受領したものというべきである。したがって、被告山内興産が、駐車場専用使用権の分譲代金の名目で受領した右一四四〇万円は、受任者たる地位に基づいて、右委任事務を処理するにあたり受け取ったものであるから、管理組合は、被告山内興産に対し、委任契約(民法六四六条一項)に基づき、右金員の返還を求めることができる。

よって、原告福本(管理組合理事長)は、被告山内興産に対し、不当利得請求が認められないときは、予備的に委任契約に基づき、右金一四四〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年一二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の趣旨第2項について

(一)(1) 本件各売買契約においては、本件敷地は全て専有部分の床面積割合による区分所有者全員の共有に属することとされたが(その割合は別表①記載)、被告山内興産は、各区分所有者に対し、本件各売買契約に基づく本件敷地の各持分移転登記手続債務のうち、別表②の割合ずつの持分移転登記手続しか履行していない。

(2) 他方、被告山内開発には、本件敷地の二四九〇分の一二の共有持分登記が存する。

しかし、被告山内興産と被告山内開発との間には、本件マンションの建築・分譲に際して、本件各売買契約成立を停止条件とする各持分移転の合意(贈与ないし売買)が存したのであるから、少なくとも本件マンション完売後は、被告山内興産は、被告山内開発に対し、右合意に基づき、被告山内開発が留保している二四九〇分の一二持分登記について、その移転登記請求権を有する。

(3) よって、本件原告のうち後記(二)ないし(五)の原告を除く、有馬貴晴、山本敏幸、山本孝、竹内ヒロ子、山田泰三、中村龍雄、江口武司、古殿憲一、古殿フサ江、多田隈優、永江賢二、末吉富美子、堀江信子、西本文子、江口康弘、福本喜之、小山アサ子、安藤昌、安藤黎子、岡崎厚、岡崎晴美、寒野つゆ子、浦田泉、城戸洋二、小野則夫、大場景美、後藤象次郎、藤原千代子、田中政文、板東光康、上畠政男、堤久也、杉本光枝、西里勇作、髙本英治、髙本秀美、伊藤信行、伊藤直子、中原義憲、形井洋、形井清子は、それぞれ、本件敷地につき、本件各売買契約に基づき、被告山内興産に対し、主文第三項2記載の持分移転登記手続を求めるとともに、右持分移転登記請求権を被保全権利として、被告山内興産の被告山内開発に対する(一)(2)の移転登記請求権を代位行使して、主文第三項1記載の持分移転登記手続を求める。

(二)(1) 訴外株式会社東邦開発(以下「訴外東邦開発」という。)は、昭和六三年一〇月二九日、訴外西村惠美子(以下「訴外西村」という。)から、競売により建物番号七〇二号に関する本件敷地共有持分権の譲渡を受けた。

(2) 原告日本橋建物株式会社(以下「原告日本橋建物」という。)は、平成二年二月二八日、訴外東邦開発から、売買により建物番号七〇二号に関する本件敷地共有持分権の譲渡を受けた。

(3) よって、本件敷地について、前記のとおり、被告山内興産は被告山内開発に対し主文第三項1記載の持分移転登記請求権を有し、また、訴外西村が被告山内興産に対し本件各売買契約に基づき主文第三項3記載の持分移転登記請求権を有し、右(1)(2)の各売買契約に基づき、訴外東邦開発が訴外西村に対し持分移転登記請求権を、原告日本橋建物が訴外東邦開発に対し持分移転登記請求権をそれぞれ有しており、各登記請求権を保全するため前者の登記請求権を代位行使できるから、原告日本橋建物は、順次代位権を代位行使して、主文第三項1記載の持分移転登記手続を求めるとともに、訴外西村への主文第三項3記載の持分移転登記手続を求める。

(三)(1) 原告山縣光幸(以下「原告山縣」という。)は、昭和六三年一〇月二九日、訴外豊村征靖(以下「訴外豊村」という。)から、売買により建物番号六〇五号に関する本件敷地共有持分権の譲渡を受けた。

(2) よって、本件敷地について、前記のとおり、被告山内興産は被告山内開発に対し主文第三項1記載の持分移転登記請求権を有し、また、訴外豊村が被告山内興産に対し本件各売買契約に基づき主文第三項3記載の持分移転登記請求権を有し、原告山縣が右売買契約に基づき訴外豊村に対し持分移転登記請求権を有しており、各登記請求権を保全するため前者の登記請求権を代位行使できるから、原告山縣は、順次代位権を代位行使して、主文第三項1記載の持分移転登記手続を求めるとともに、訴外豊村への主文第三項3記載の持分移転登記手続を求める。

(四)(1) 原告國廣靖子は、訴外國廣貞夫が死亡したことで、同人が有していた建物番号九〇五号に関する本件各売買契約に基づく本件敷地持分についての移転登記請求権を、平成元年三月一四日相続により取得した。

(2) よって、原告國廣靖子は、被告山内興産に対し、主文第三項2記載の持分移転登記手続を求めるとともに、右持分移転登記請求権を被保全権利として、被告山内興産の被告山内開発に対する(一)(2)の移転登記請求権を代位行使して、主文第三項1記載の移転登記手続を求める。

(五)(1) 原告伊藤トミ子は、訴外伊藤諒が死亡したことで、同人が有していた建物番号二〇二号に関する本件各売買契約に基づく本件敷地持分についての移転登記請求権を、平成二年四月一日相続により取得した。

(2) よって、原告伊藤トミ子は、被告山内興産に対し、主文第三項2記載の持分移転登記手続を求めるとともに、右持分移転登記請求権を被保全権利として、被告山内興産の被告山内開発に対する(一)(2)の移転登記請求権を代位行使して、主文第三項1記載の移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1について

(一) (一)の事実は不知である。

(二) (二)の事実のうち、原告竹内ヒロ子についての本件駐車場専用使用権の分譲代金は金一〇〇万円、原告小野則夫については金一一〇万円であるので、その限度で否認し、その余は認める。

(三) (三)、(四)の事実は争う。

2  請求原因1に対する被告の主張

(一) 被告山内興産は、本件マンションの建設に際して、本件敷地に一四台分の駐車場のスペースを確保したうえ、専有部分の購入者との間において、「甲(買主)は、本件の共有物のうち、土地の一部(別添図面のとおり)を専用駐車場又は庭園として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する。」との契約条項を有する契約書を取り交わし、各購入者のうち専用駐車場の使用権を取得する者との間では、契約書において売買物件の表示欄に専用駐車場の区画番号を指定し、売買価格にそれぞれ一二〇万円を専用駐車場の分譲代金の名目で上乗せして受領した。したがって、この金一二〇万円は、本件マンションの敷地の一部に設けられた駐車場の専用使用権の取得の代価として被告山内興産が本件各売買契約に基づき受領した金員であり、いわゆる土地付分譲マンションの売買代金の一部ともいえるものである。

(二) いわゆる土地付分譲マンションにおいて、共用部分や共有に属する敷地の一部につき特定の者のために排他的使用権すなわち専用使用権を区分所有者間の合意ないし管理組合規約等の定めによって設定することは可能であり、他の区分所有者の権利を害しない範囲内において法的効力を認めることができる。そして、この専用使用権は、区分所有や共有関係が成立する以前において分譲業者と購入者との間の分譲契約においても有効に設定することができる。分譲契約書において専用使用権設定に関する条項が規定され、購入者全員がこれを承諾している場合、区分所有者全員がその専用使用権の設定に同意したことになるからである。

このようにして設定された専用使用権の法的性格については様々の議論が存するところであるが、分譲業者との分譲契約によって専用使用権を取得した区分所有者は、少なくともその契約の定めるところにしたがって共有敷地等の一部につき排他的にこれを使用する権利を取得し、他方、それ以外の区分所有者はその排他的使用を受認すべき義務を負うという債権的関係が成立することは間違いのないところであり、購入者にとってこうした専用使用権は、それ相応の代価を支払うに足りる価値を有していることも明らかである。

(三) 分譲マンションの区分所有関係や敷地の共有・使用に関する権利関係は、ほとんどの場合、マンションの分譲業者による区分所有建物の建築と分譲行為によって初めて創設されるものである。そして、一棟の建物を構造上どのように区分して分譲するか、その敷地の使用権限としてどのような内容の権利を建物の区分所有者に分譲するか、また、これらの分譲の対価をどの程度のものにするかは、もっぱら分譲業者が自由に決定できる販売政策上の問題である。分譲業者が敷地の一部につき専用使用権を留保したうえで、一定割合の敷地の共有持分を各購入者に譲渡することも、また、その留保した専用使用権を特定の希望者に相応の価格で譲渡することも、いずれも分譲業者が自由になしうる所有権の処分であり、契約自由の原則が妥当する領域内の行為である。一部につき専用使用権が分譲業者に留保された敷地の共有持分を譲り受けることは、土地の一部につき借地権等土地使用権の負担のある所有権を譲り受けることと大差はなく、そのような負担のある土地持分権をいかなる価格で売却しあるいは買い受けるかも、契約当事者が自由に決定すべき事柄である。

(四) 本件駐車場専用使用権の分譲代金は、被告山内興産が売買契約(分譲契約)に基づき、自ら留保した駐車場専用使用権譲渡の対価として、その譲受人から受け取った代金なのであるから、法律上の原因のない利得とは到底いえない。また、駐車場専用使用権の取得者と被告山内興産との間の分譲契約は、被告山内興産が自己のためにした契約であることは、その形式からしても、契約当事者の真意からしても歴然としており、これを当時結成もされておらず存在もしていない管理組合のための代理行為と解すべき根拠は全くない。

(五) 駐車場分譲代金の帰属について

分譲業者と購入者全員との間の分譲契約において、特定の購入者が取得する駐車場専用使用権の対価を定めたうえ、これを分譲業者が取得するのではなく、将来区分所有者によって設立される管理組合のために、あるいは現在または将来の区分所有者全員のために分譲業者が預かるという方式をとることはもちろん可能である。

しかし、右対価を分譲業者が取得する方式と管理組合ないしは区分所有者全員が取得する方式のいずれの方式をとるかは、あくまで分譲業者と購入者との間の分譲契約によって定まるのであって、どちらでなければならないという原則があるわけではなく、またどちらの方式を好ましいとするかは、分譲業者、購入者、専用使用権の取得者と非取得者などそれぞれの立場によって相違し、一律には決められない事柄である。分譲業者が取得するのであれば、専有部分の分譲価格はそれ相応に安く設定され、預り金とするならば、それだけ高く設定されるであろうから、購入者の立場からしても、どちらが利益であるかは一概にいえないところである。これが分譲代金の一部であるか、預り金であるかは、もっぱら分譲契約の内容すなわち契約の解釈によって定まることである。

本件の場合、駐車場専用使用権の移転はもっぱら専有部分の分譲契約において個別的に行われており、その対価も全員一律ではなく、購入者によっては、被告山内興産の方針により値引きも行われている。また、原告形井洋の場合は、金銭の対価によらず交換により設定されているのである。このように駐車場専用使用権の対価が被告山内興産において自由に設定できる売買代金の一部として当事者間に観念され、取り扱われていたことは歴然としており、区分所有者全員のための預り金というのでは全く説明がつかない。他方、被告山内興産が本件駐車場の分譲を区分所有者全員のための管理業務として行ったと解すべき根拠は皆無であり、そのような解釈は契約当事者の意思に明らかに反している。

3  請求原因2について

(一)(1) (一)(1)の事実のうち、被告山内興産が、本件原告のうち、有馬貴晴、山本敏幸、山本孝、山田泰三、中村龍雄、江口武司、古殿憲一、古殿フサ江、多田隈優、永江賢二、江口康弘、福本喜之、小山アサ子、安藤昌、安藤黎子、岡崎厚、岡崎晴美、浦田泉、城戸洋二、大場景美、後藤象次郎、上畠政男、堤久也、西里勇作及び訴外伊藤諒、訴外豊村、訴外西村、訴外國廣貞夫に対して移転登記している本件敷地の共有持分割合が、別表②記載のとおりであることは認めるが、その余は否認する。被告山内興産が、各区分所有者に対して売買分譲した本件敷地の共有持分権の割合は、現に登記されているとおりである。

(2) (一)(2)及び(3)の事実のうち、被告山内開発が本件敷地について二四九〇分の一二の共有持分を有することは認めるが、その余は否認する。

(二) (二)の(1)及び(2)の事実は不知。(3)は否認する。

(三) (三)の(1)の事実は不知。(2)は否認する。

(四) (四)の(1)の事実は不知。(2)は否認する。

(五) (五)の(1)の事実は不知。(2)は否認する。

(六) 被告山内興産は、本件敷地の共有持分について、本件原告のうち、竹内ヒロ子、末吉富美子、堀江信子、寒野つゆ子、小野則夫、藤原千代子、田中政文、板東光康、杉本光枝、髙本英治、伊藤信行、中原義憲、形井洋(以上一三名)に対しては、別表②記載の割合の他に、それぞれ二四九〇分の一二の割合の持分移転登記手続を既に行なっており、現在では、本件敷地の共有持分は、被告山内開発名義の二四九〇分の一二を除いては、全て原告らに移転済みである。

したがって、右原告一三名の共有持分移転登記手続請求に理由がないことは明らかであり、また、その余の原告らの共有持分移転登記手続請求も山内興産に対して不能を強いるもので理由がない。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1について

1  (一)の事実は、弁論の全趣旨によって認めることができる。

2  (二)の事実のうち、原告竹内ヒロ子及び同小野則夫の本件駐車場専用使用権の分譲代金の額を除いては争いがない。

そこで、右両名についての分譲代金額について判断すると、被告山内興産取締役副社長であり、かつ、被告山内開発副社長である証人末吉藤三郎の証言によれば、本件駐車場の分譲代金は、一律一二〇万円ではなく、営業政策上の値引きとして、原告竹内ヒロ子については金一〇〇万円、同小野則夫については金一一〇万円だったことが認められ、これに反する証拠はない。

3  本件駐車場専用使用権分譲契約の検討((三)、(四)について)

(一)  前示の事実に、成立に争いがない甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし三八、第一八ないし第二一号証、証人末吉藤三郎の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証、証人末吉藤三郎の証言、原告中原義憲及び江口武司の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の(1)及び(2)の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 被告山内興産は、昭和六〇年六月から昭和六二年六月ころまでの間、被告山内開発が所有していた本件敷地上に本件マンション(専有部分の建物個数三六戸)を建設して分譲販売するに際し、本件敷地の一部(建物一階部分の一部)に一四区画の駐車場を設けて、本件マンションの分譲とは別に、各駐車場についての専用使用権を、駐車場の使用を希望する本件マンション購入者に対して、右2判示のとおり、一〇区画を一二〇万円(一区画当たりの単価。以下同じ。)、二区画を一〇〇万円と一一〇万円でそれぞれ分譲し、その間に本件マンションが完成し、昭和六二年六月ころ、本件マンション購入者全員から売買代金が完済され、駐車場専用使用権者は駐車場の代金として合計一四一〇万円を被告山内興産に支払い、各マンション購入者に対し、被告山内興産から、本件マンションの引渡しが行われ、被告山内開発から、本件敷地について、いったん各持分移転登記手続がなされたが、その後、特に駐車場専用使用権者に対しては、追加的に二四九〇分の一二の割合ずつの持分移転登記手続がなされた結果、別表②の割合ずつの各持分移転登記が存することとなった。そして、昭和六一年一一月から一二月ころに本件マンションへの入居がなされ、駐車場専用使用権者は各駐車場区画の使用を始めた。

購入者全員は、本件マンションについては管理組合による自主管理を行うと規定された本件各売買契約に従って管理組合を結成し、昭和六一年一二月六日、管理組合の第一回総会を開き、シャルム田町管理組合規約を制定し、以後本件マンションを管理組合によって管理した(管理組合による管理が開始されるまでの間の本件マンションの管理の形態、具体的態様については不明である。)。

(2) 被告が本件マンション購入者全員との間で交わした本件マンションの土地付区分建物売買契約書(甲第一号証及び第二一号証はその一部であり、代金額等の区分所有者ごとに個別に決せられる点を除き内容は同一である。以下「本件契約書」という。)には、土地及び建物並びにその付属施設の共用部分は、区分所有者全員の共有に属するものとし、これらの共有持分は、建物の専有部分の総床面積に対して、区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合による(五条一項)、専用駐車場の代金として、別途一二〇万円を、本件マンションの買主は被告山内興産に対して支払う(三条)、買主は、本物件及び共用部分の管理及び環境の維持について、本物件購入者全員により構成する自主管理組合に加入し、その組合の管理規約及び契約に従わなければならない(九条二項)、買主は、本物件の共有物のうち、土地の一部(別添図面のとおり)を専用駐車場又は庭園として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する、その場合専用駐車場又は庭園は現況有姿のままとし、工作物の構造及び使用目的の変更はできないものとする(一三条二項)旨各規定されているが、結局、専用駐車場の代金は別途支払うと記載されているだけである。そして、本件契約書末尾記載の別添図面である図面集(甲第五号証)の中の「建築概要」の箇所に、駐車場について、「分譲一四区画、一区画一二〇万円」と記載されているが、駐車場を経営するのが誰であるか等駐車場の対価の帰属を窺わせる具体的説明はない。

また、本件各売買契約の際に各マンション購入者に対し交付された重要事項説明書(甲第四号証及び第二〇号証はその一部であり、区分所有者ごとに個別に決せられる点を除き内容は同一である。)には、駐車場専用使用権を取得した者に対しては、「専用使用権に関する規約等の定め(駐車場、専用庭、バルコニー等)」の部分が、全て斜線で抹消されて、何ら記載がなく、取得しなかった者に対しては、「専用使用権に関する規約等の定め(駐車場、専用庭、バルコニー等)」の部分中、「その他の専用部分」は斜線で抹消してあり、「駐車場」の部分の、「専用使用をなしうる者」、「専用使用料の有無」、「専用使用料の帰属先等」のいずれの箇所も空白で全く記載がない。

(二)  駐車場専用使用権及び分譲契約の法的性質

(1) ところで、宅地建物取引業法三五条一項五号の二、同施行規則一六条の二第三号は、共用部分に関して専用使用権があるときは、その内容を重要事項説明書の中で説明しなければならないと規定し、建設省は、これを受けて、「宅地建物取引業法及び積立式宅地建物販売業法の一部を改正する法律、宅地建物取引業法施行令及び地方公共団体手数料令の一部を改正する政令及び宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令の施行について」と題する通達(昭和五五年一二月一日建設省計動発第一〇五号。甲第二八号証の二参照。)の中で、重要事項説明書における駐車場専用使用権に関する説明の具体的態様について、「専用使用権は、通常、駐車場、専用庭、バルコニー等に設定されるものであるが、このうち駐車場については特に紛争が多発していることに鑑み、その『内容』としては、専用使用をなしうるものの範囲、専用使用料の有無、専用使用料を徴収している場合にあってはその帰属先等を記載すること」としている。この通達からも窺われるように、宅地建物取引業法三五条一項五号の二や同施行規則一六条の二第三号の趣旨は、マンションにおける駐車場専用使用権をめぐる紛争を防止するために、宅地建物取引業者である分譲会社に対して、専用使用権の内容に関するマンション購入者に対する説明を、書面によって十分にさせることを要請していると解するのが相当である。

また、建設省は、右通達に先んじて、「民間分譲中高層共同住宅(分譲マンション)に係る施工管理の徹底、取引の公正の確保及び管理の適正化について」と題する通達(昭和五四年一二月一五日建設省計動発第一一六号、建設省住指発第二五七号。甲第二八号証の一参照。)の中で、「共有敷地等における使用収益関係等の明確化」として、「共有敷地及び建物の共有部分の権利関係、使用収益関係を巡って紛争を生ずる事例が多いことに鑑み、取引段階においてこれらを明確にすること。特に、分譲業者が共有敷地等に専用使用権を設定してその使用料を得る等の例は、現在少なくなっているが、取引の形態としては好ましくないので、原則として、このような方法は避けること。また、専用使用権の設定に当たっては、存続期間、使用料等について公正かつ妥当なものとし、これらを管理規約等において明定するとともに、これから生ずる収益等については、修繕積立金への繰り入れにより区分所有者の共有財産に帰属させる等公正な処理を行なうこと」として各地方公共団体や業界に対して行政指導している。

したがって、分譲会社である被告山内興産は、本件敷地上に存する駐車場専用使用権の対価を取得するのであれば、宅地建物取引業者の義務として、本件各売買契約時において、どのような権限に基づいてその対価を取得するのかについて、少なくとも前記通達で要求している程度は、書面によって説明すべきであったということができる。

(2) ところが、前記(一)(2)のとおり、被告山内興産は、本件契約書中に、専用使用権の内容として、区分所有権者は、本物件の共有物のうち、土地の一部を専用駐車場又は庭園として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾するという条項は置いているものの、その対価については、単に専用駐車場の代金として別途一二〇万円を支払うという条項を置いただけであって、これだけでは、分譲業者である被告山内興産が、どのような権限に基づいて、駐車場専用使用権の対価を取得するのかについて、契約書上、十分な説明がなされているとは評価できない。そして、本件契約書の内容を補完するものとして、宅地建物取引業法により、その作成・交付が義務づけられている重要事項説明書の中でも、「専用使用権に関する規約等の定め(駐車場、専用庭、バルコニー等)」として、「駐車場」の箇所に、「専用使用をなしうる者」、「専用使用料の有無」、「専用使用料の帰属先等」といった欄を設けているにもかかわらず、斜線で欄全体を抹消したり、空白のままにするなど、駐車場の専用使用を認諾すべき者に対してさえ、全く説明がない。また、本件契約書の中で別添図面として扱われている図面集の中にも、駐車場の対価の帰属先等について、契約書や重要事項説明書の内容を補完するような記載は全くない。この点に関し、証人末吉は、駐車場の分譲は、単独所有権を購入者に移すということではなく、永続的に利用して貰うということであり、一人の人が継続的に使用できる永続的な権利である、契約書上も駐車場部分は共有ではないとか、駐車場の購入者の共有持分を増やすということで登記上も区別をした、重要事項説明書で斜線で抹消してあるのは、契約書の中にも記載してあるのでなどと供述しているものの、購入者に対して具体的にどう説明したかについての明確な証言はなく、他方、原告中原義憲(建物番号一〇〇五号)は、本件マンションに入居している間は、駐車場を永久に使用できるという説明を受けた旨供述しているにすぎない。結局、口頭でも、本件契約書や重要事項説明書等の不十分さを補う具体的説明がなされたと認めることはできない。

(3) しかし、本件各売買契約においては、駐車場を含む本件敷地は共用部分として区分所有権者全員の共有とされていたことは明らかであるから、分譲業者たる被告山内興産が、独立の取引対象になったり、永久使用ができるような物権的権利や物的負担をたやすく設定しえないものであることもまた明らかである。

被告山内興産が、駐車場対価を一〇〇万円から一二〇万円という建物区分所有権及び敷地持分の対価(一四八五万円から一八八〇万円)に比してけっして少額とはいえない額に設定していること及び本件マンション購入者全員が、本件各売買契約において、駐車場専用使用権者に駐車場を排他的に使用させる義務を負担することを認諾し、右義務を相当期間負担することからすると、被告山内興産が受領した駐車場対価は、この駐車場を使用させる義務の対価であると認めるのが相当である。

そして、駐車場専用使用権の存続期間については、被告山内興産は分譲にあたり本件マンションの存続期間程度を意識していたといえるが、右存続期間は相当の長期間に及ぶものであり、右駐車場対価は、右長期間の使用対価としては廉価であり、他方、本件マンション購入者全員が前記の認諾によりそのような長期間の権利の設定まで承認したものとみることはできない(他の専用使用権の対象であるテラス及び専用庭の場合は、特定の区分所有者しか利用できないものであり、当該区分所有権に付随するものであることの承認がなされているとみることができ、この点で駐車場専用使用権と区別される。)から、分譲代金額と近隣の駐車場使用料金を比較し、相当期間存続すべきものというしかない。

また、駐車場専用使用権は、本件マンション購入者全員の承認により認められた権利にすぎないのであるから、これを譲り受けた者もまた、その権利の行使にあたっては、本件敷地に関する管理事項にあたるため管理組合の承認を必要とするものというべきである。

(4) そうすると、本件各売買契約においては、被告山内興産が、各区分所有者に対し順次本件マンションの専有部分の建物及び本件敷地の共有部分を分譲し、その際、駐車場の使用を希望する者に対し、順次駐車場専用使用権を設定していくことが当然予定されていたのであるから、本件契約書中の「土地の一部を駐車場・庭として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する」との記載の趣旨は、その特定の者(専用使用権者)の選定及びこれとの専用使用権設定契約の締結を被告山内興産に一任する趣旨であり、被告山内興産が既に締結した専用使用権設定契約については、その契約上の地位を承継することを承諾したものと解するのが相当である。すなわち、被告山内興産は、駐車場専用使用権の設定についての本件マンション購入者全員の同意を前提に、本件マンション購入者全員から右委任を受けて(未だ分譲していない分については将来分譲すべき区分所有者のために)、専用使用権者を選定し、本件マンション購入者全員のために専用使用権設定契約を締結し、本件マンション購入者全員に右契約関係を引き継ぐことを義務づけられていたと解すべきである。そして、本件契約書には「本物件の管理責任は引渡しと同時に区分所有者に移転する、区分所有者は本物件及び共用部分の管理及び環境の維持についてマンション購入者(区分所有者)全員により構成する自主管理組合に加入し、その組合の管理規約及び契約に従わなければならない」旨記載され、右契約書を補完するために作成された重要事項説明書には、管理の委託先として「管理組合による自主管理」とする旨の記載があるから、本件駐車場の管理を含め、本件マンションの管理関係はすべて管理組合に委託することが予定されていたものである。そして、実際、本件マンションの管理関係(駐車場の管理関係を含めて)はすべて管理組合に委託されたのであるから、管理組合が設立された段階では、各駐車場の専用使用権設定契約上の地位も管理組合に移転したものと解すべきである。

したがって、被告山内興産は、右委任を受けて、本件マンション購入者全員のために駐車場の分譲契約(専用使用権設定契約)を締結したものと解するのが相当であって、被告山内興産が取得した駐車場対価は右専用使用権に対する対価である以上、反対給付である駐車場の専用使用を認諾する義務を負担した本件マンション購入者全員(管理組合)に帰属すべきであり、被告山内興産がこれを取得するいわれはないというべきである。

(5) もっとも、被告山内興産が駐車場の分譲代金を専用使用権者から受領して区分所有者に支払う代わりにその分を区分所有者に対する分譲代金から差し引いたものと解する余地がないではないが、そのためには売買契約書にその趣旨の明確な記載があるか、売買契約締結の際の説明によって、本件マンション購入者全員にその旨十分了解されていたことが必要である。しかし、本件契約書には右趣旨を認めるに足りる記載は見当たらず、分譲の際被告山内興産従業員らによってなされた説明は、前記各供述の内容にとどまり、そのような説明がなされたことを認めるに足りる証拠もない。したがって、被告らが主張するような本件各売買契約においては駐車場対価は分譲業者が取得する方式が採用されているなどという説明がなされたとはいえず、右のようなことが被告山内興産と各マンション購入者との間で了解されたうえで本件各売買契約が締結されたと評価することはできない。

(三)  結論

以上の検討から、本件駐車場分譲代金は、被告山内興産が、本件マンション購入者全員の委任に基づき、駐車場専用使用者から受領したものと解すべきであるから、これが不当利得であるという原告福本(管理組合理事長)の主張(請求原因3)は採用できない。

しかし、右代金は、被告山内興産が委任事務の処理上受け取ったものであり、本件マンション購入者全員に帰属すべきものであるから、民法六四六条一項の「委任事務を処理するに当りて受取りたる金銭」に該当し、委任者である本件マンション購入者全員により構成される管理組合は被告山内興産に対しこれを請求でき、原告福本(管理組合理事長)は、管理に関する事項として右請求権を行使することができると解するのが相当である。

4 よって、原告福本(管理組合理事長)は、被告山内興産に対し、本件駐車場分譲代金一四一〇万円(前記2で認定したとおり。)及びこれに対する請求の日である訴状が被告山内興産に送達された日の翌日である平成二年一二月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求できるものと認められる。

二  請求原因2について

1  (一)(1)の事実のうち、被告山内興産が、本件原告のうち、有馬貴晴、山本敏幸、山本孝、山田泰三、中村龍雄、江口武司、古殿憲一、古殿フサ江、多田隈優、永江賢二、江口康弘、福本喜之、小山アサ子、安藤昌、安藤黎子、岡崎厚、岡崎晴美、浦田泉、城戸洋二、大場景美、後藤象次郎、上畠政男、堤久也、西里勇作及び訴外伊藤諒、訴外豊村、訴外西村、訴外國廣貞夫に対して移転登記している敷地の共有持分割合が別表②記載のとおりであること及び(一)(2)の事実のうち、被告山内開発に本件敷地の二四九〇分の一二の持分登記が存することは、いずれも争いがない。

2  そこで、(一)(2)の事実のうち、被告両名の間の本件各売買契約成立を停止条件とした持分移転の合意(贈与ないし売買)の存否について検討すると、成立に争いのない甲第六号証(登記簿謄本)によれば、被告山内開発に本件敷地の共有持分登記が存するのは、まず、被告山内開発が、本件敷地をもと所有していた形井洋から取得し、それを被告山内興産が分譲したという経緯によるものと推測できる。しかし、請求原因1について検討したところで述べたように、成立に争いのない甲第一号証及び第二一号証(いずれも本件売買契約書)等によれば、被告山内興産は、本件マンションの分譲に際し、本件契約書記載のとおりに本件敷地の全共有持分を分譲売却するつもりだったと認められ、逆に、本件マンションの区分所有者ではない被告山内開発に右持分を留保すべき理由は見当たらず、被告両名に本件敷地の共有持分を留保したままで分譲をする意図があったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告山内開発に本件敷地の持分登記が存すること自体不合理であるが、結局、被告山内興産は、本件マンションの分譲に際し、本件契約書記載のとおりに本件敷地の全共有持分を分譲売却するつもりであったことからすれば、被告両名の間に、本件マンションの建築分譲に際して、本件各売買契約成立を停止条件とする各持分移転の合意(贈与ないし売買)が存したことを認定することができる。

3  (二)(1)及び(2)の事実は成立に争いのない甲第七号証の二三(登記簿謄本)及び弁論の全趣旨によって、(三)(1)の事実は成立に争いのない甲第七号証の二一(登記簿謄本)及び弁論の全趣旨によって、(四)(1)の事実は成立に争いのない甲第七号証の三三(登記簿謄本)及び弁論の全趣旨によって、(五)(1)の事実は成立に争いのない甲第七号証の三(登記簿謄本)及び弁論の全趣旨によって、それぞれ認めることができる。

4  そして、本件敷地の共有持分割合について、原告らは、専有部分の床面積割合によると主張し、被告らは、現に登記されているとおりであると主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第一号証及び二一号証(いずれも本件売買契約書)には、土地は、区分所有者全員の共有に属し、共有持分は、建物の専有部分の総床面積に対して、区分所有者が有する専有部分の床面積の割合による(四条一項)、右床面積は、区分所有登記の登記面積とする(同条二項)旨各規定され、成立に争いのない甲第五号証(図面集)には、「所有権登記」の「登記面積」の箇所に、「※但し改正区分所有法に基づき登記手続をいたします」と記載されているので、専有部分の床面積割合によると認めることがでる。

これに対して、証人末吉は、これらの契約書を修正しなかったのはミスであるが、契約の時点で説明しているので、問題にされなかった、図面集についてもミスで修正していなかったものであるなどと供述している。しかし、原告中原は、土地は共有持分で敷地権が設定され、これは新しい区分所有法に基づく譲渡である旨説明を受けた、敷地権の設定は、区分所有者全員の共有ということだった、駐車場について追加的に土地の共有持分の移転登記手続がなされるという説明はなかったと供述しているのであるから、右末吉の供述は採用できず、被告らが主張するような契約内容の合意があったということはできないので、本件契約書や図面集の記載のとおり、共有持分の割合は、専有部分の床面積割合によるものと認められる。

5  したがって、区分所有者である原告らは、本件各売買契約において、被告山内興産に対して、各区分所有者の専有部分の床面積の割合に応じた本件敷地の共有持分登記を受ける権利を有しているのであるが、実際には、別表②記載のとおりの持分移転登記手続しか受けていないから、別表③記載の割合の共有持分については、なお持分移転登記手続を受ける権利を有しているので、主文第三項1ないし3各記載のとおりの持分移転登記手続請求をなしうる。

三  結論

以上によれば、本訴各請求のうち、請求の趣旨第1項については、主位的請求は理由がないから棄却し、予備的請求は、そのうち金一四一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年一二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから右限度で認容し、その余は失当であるから棄却し、請求の趣旨第2項については、全部理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条ただし書、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官綱脇和久 裁判官犬飼眞二 裁判官平島正道)

別表

<省略>

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